コラム



第4回  排気音と吸気音 ~ 「沈黙の世界」のノイズ達

 前回は、タッピングのコツとして、無音時を狙ってタッピングすることをご説明しました。
 今回は、排気音と吸気音について書いてみます。どうぞお付合いください。

 スクーバ装置を発明したクストー船長のドキュメンタリー映画「沈黙の世界」がカンヌ国際映画祭グランプリを 受賞したのは1956年のことですから、もう半世紀以上も前です。なぜ、クストー船長が「沈黙の世界」というタ イトルをつけたのかはわかりませんが、水中が会話の出来ない世界であることも一因かもしれません。レジャー ダイビングでは、話しかけられることも話すこともない静寂の世界だったのは確かです。

 しかし、実際の水中はまったくの無音ということではありません。小さな音ですが、いろいろ聞こえてきます。 生物たちの声なのでしょうか。しかし、鳥や虫たちの声、木々のざわめき、風の音、波の音から比べれば、海の 中は「沈黙の世界」と言えるのでしょう。

 もう一つ水の中で聞こえる音があります。それが、今回のテーマである排気音と吸気音です。排気音はブクブク と泡がぶつかったり、移動したりする音です。吸気音はシューというレギュレータから空気を吸い込むときの音です。 この2つは、水の中で私たちダイバーが呼吸するために必須の音ですが、本来「沈黙の世界」には無い音です。

 Logosease にとって、この排気音と吸気音はいろいろと悪さをしてくれる厄介者です。

 まず、排気音からご説明しましょう。

 排気は泡の集まりです。これは4つの悪さをしてくれます。早速書き出してみましょう。
  • 第1に、泡が耳のそばを通ると、その音で相手の声が聞こえにくくなります。
  • 第2に、大きな泡が Logosease に当たると、タッピングと同じことになり、送信・受信モードが切り替わる時があります。
  • 第3に、泡が Logosease のそばを通過すると、その音をマイクがひろってしまいます。
  • 第4に、泡が Logosease の前方にあると超音波を阻害します。

 これらの対策は呼吸をゆっくりし、大量の排気をしないことです。これはダイビングの呼吸法とも通じますので、 排気音で聞き取りにくい時や排気によるタッピングの誤動作は、ダイビングの呼吸が上手になればコントロール できるようになります。
 しかし、泡の音をマイクがひろっているとか、泡が超音波を妨害しているとかは、喋っているダイバー本人には 分かりません。話し手側が十分に注意しないと、相手に全く通じないということになります。

 では、どのように話せば良いでしょうか。
 それは、とても簡単なことです。少し右に頭を傾けて話してください。
 たったこれだけのことで、排気の泡が Logosease とは逆の方向へ進み、悪さはしなくなるのです。

 排気音の悪影響を小さくするためのポイントをまとめます。

  • ゆっくりと呼吸をする。
  • 話すときは頭を右に傾ける。

 次に吸気音です。
 空気を吸う時にレギュレータからシューという【可聴音】が聞こえますが、同時に超音波帯にも【非可聴音】として 音が出ています。この超音波を受信して、スピーカーから自分の吸気音が聞こえます。これが、吸気時に Logosease から聞こえるシューという音の正体なのです。

 吸気音の超音波をほとんど出さない静かなレギュレータもありますが、大きい音(超音波)を出すレギュレータもあ ります。どのようなレギュレータが静かなのか、はっきりしたことはわかりません。呼吸抵抗のスペックはあっても超 音波のスペックを明記しているレギュレータが世の中に存在しないからです。

 私ども山形カシオは、著名なメーカーのレギュレータを幾種類かテストし、吸気音が気にならないレベルに Logosease をチューニングしています。にもかかわらず、かなり大きな吸気音が聞こえてくる場合は、弊社の想定以上の超音波 を発するレギュレータが存在しているのかもしれません。レギュレータからの超音波がノイズ源であるかどうかは、セ カンドステージを両手で覆ってみると分かります。吸気音が低くなれば、セカンドステージがノイズ源です。
 対策としては、ゆっくり息を吸うことです。それにより、吸気音も押さえられます。この方法で効果が無い場合は、レ ギュレータのオーバーホールの実施や、他のセカンドステージへの交換などが考えられます。

 それでは、吸気音を小さくするためのポイントをまとめます。

  • ゆっくりと呼吸する。
  • セカンドステージからの超音波が大きい場合は、オーバーホールも検討してみる。

 排気音と吸気音という2つの厄介者、いかがでしたでしょうか? このような話しを聞くと、リブリーザーならどうなの か?と思います。実は、ちょっとだけ試しました。あまりの素晴らしさに感動です。排気音、吸気音が無いだけでなく、 口の前に空気溜まりがあるため音の抜けも良く、本当に発音できないパ行【p】、バ行【b】、マ行【m】以外はフルフェ イスマスク以上の明瞭度かもしれません。手頃な装備になれば、常用したいものの一つですね。

 次回は、魚群探知機の超音波についてお話しする予定です。

 昨今では釣り人用の携帯型の魚群探知機が普及し始めています。魚群探知機は、50KHzと200KHzの2つの周波 数の超音波のいずれかを連続的に発射し、魚影を検出します。Logosease の超音波帯とは異なっていますがとても近い です。影響は無いのでしょうか?実験した結果をレポート予定です。


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